老後資金の現金化の手段として「民事信託契約」を考える

弁護士の松田です。早いもので師走に入りましたが、いかがお過ごしでしょうか。

以前、老後資金は家族が現金化できるようにしておく必要があること、その方法として任意後見契約民事信託契約が挙げられることを述べました。

今回は、民事信託契約についてお話しします。

信託とは?

信託とは、「信じて託すること」です。

簡単に言うと、「自分(委託者)の財産(信託財産)を、信頼できる人(受託者)に託し、利益を受ける人(受益者)のために、特定の目的(信託目的)に従って、管理、運用、処分してもらうこと」です。

信託とは

民事信託の不思議

(1)信託財産は「委託者のもの」ではなく、「受託者のもの」でもありません

  • 委託者は、信託財産を処分することはできません。
  • 受託者は、信託目的に従ってのみ、信託財産を管理・運用・処分することができます。
  • 受託者が死亡しても、信託財産は遺産となりません。
  • 受託者が破産しても、信託財産は債権者に取られません。

(2)民事信託は、自分で「制度設計」することできます

民事信託には決まった形はありません。委託者が、自分で「制度設計」することができます。

民事信託を使えば、任意後見契約ではできないことや遺言ではできないことを実現することもできます。

※ 民事信託と任意後見の違いについては、次の回でお話ししたいと思います。

 

民事信託を使った老後資金の現金化

民事信託を使った老後資金の現金化の例です。

本人である父親が長男との間で、民事信託契約を結びます。民事信託契約で、自宅を信託財産にしたうえ、長男に対し、自宅を現金化するために必要な権限を与えます。

民事信託を使った老後資金の現金化

こうすることにより、将来、本人の判断能力が低下したときであっても、受託者は、民事信託契約に基づいて自宅をリフォームすることができますし、売却、賃貸等により現金化することができます。

 

民事信託を使った老後資金の現金化のメリットは?

(1)委託者は、信頼できる受託者に財産の管理を任せることができます。

(2)委任者は、自分の財産をどのように管理し、処分するか、誰に引き継かせるか、といったことを自分で決め、受託者に指示することができます。

(3)委託者は、民事信託契約を結ぶことにより、財産管理の手間や重荷から解放されます。

(4)受託者は、民事信託契約に基づき、信託財産を維持管理し、適切なタイミングで売却等をすることができます。

民事信託のデメリット(注意点)は?

(1)受託者が民事信託契約に基づいて信託財産を管理、運用、処分することになるので、民事信託がうまく行くかどうかは、受託者次第です。
「受託者がダメ」だったら、どうしようもありません。

(2)委託者が自由に制度設計ができる反面、事前に十分に検討しておかないと設計どおりの効果が出ない可能性がありますし、想定外のこと(例えば、多額の税金がかかってしまった)が起こる可能性もあります。

民事信託契約を結んだあと、実際に行動するのは主に受託者です。民事信託契約の作成を専門家に任せきりにするのは危険です。委託者と受託者の双方が、中身を十分に理解したうえ、民事信託契約を結ぶ必要があります。

最後に

民事信託契約も、任意後見契約と同様、「いい人」に「適切なこと」を頼むことができれば、将来、スムーズに老後資金を現金化することができます。
次回は、任意後見契約と民事信託契約の違いについてお話しします。

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この記事を書いた人

松田道佐
松田道佐
弁護士。1998年(平成10年)4月に弁護士となり、個人、会社から様々な依頼を受けてきた。現在、個人については終活を踏まえた「任意後見」「民事信託」「遺言」等の財産管理業務や遺産分割に重点を置いて活動中。