実家をどうする?老後の住まいと資産を守る『家じまい』完全ガイド

空き家は社会問題。家じまいは“誰かのため”の選択でもある

【終活】家じまいを考える「実家をどうするか」──。これは親の死後に直面するだけでなく、自分自身が高齢になったときにも避けて通れない問題です。厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2022年)によると、65歳以上の世帯のうち約27.4%が一人暮らしであり、また夫婦のみの世帯も増え続けています。こうした高齢者の一人暮らしや老老世帯が増えるなかで、「家の管理が負担になる」「子どもが遠方に住んでいて戻ってこない」「将来的に空き家になる可能性が高い」と感じている方も多いのではないでしょうか。

総務省統計局の「住宅・土地統計調査」(2023年)では、全国の空き家数は過去最高の約900万戸に達し、空き家率は13.8%に上ります。特に、相続されたものの活用されずに放置された空き家は、景観の悪化、治安の懸念、そして倒壊リスクなど、深刻な社会問題となっています。自治体によっては「空き家対策の特別措置法」に基づき、管理不全な空き家に対し撤去や修繕の勧告・命令、場合によっては強制執行や行政代執行を行うケースも出てきています。こうした背景から、「家じまい」はもはや個人の問題に留まらず、社会全体への貢献という意味でも、終活における大切な一歩となっています。

家じまいの選択肢は?──売却、賃貸、リノベーション、信託など

家を手放す、あるいは維持しながら活用する方法としては、以下のような多様な選択肢があります。それぞれのメリット・デメリットや、ご自身の状況に合わせた選択を考えることが重要です。

  • 売却して現金化する:

    • 活用例: 売却益を高齢者施設への入居費用、老後の生活費、医療費などに充てる。
    • 特徴: 最もシンプルに資産を整理し、まとまった現金を確保できる方法です。特に都市部や駅近など立地の良い物件は需要が高く、比較的スムーズに進む可能性があります。
    • 注意点: 売却には不動産仲介手数料や税金(譲渡所得税など)がかかります。また、物件の状態や市場状況によっては、希望通りの価格で売れない可能性もあります。
  • リノベーションして賃貸に出す:

    • 活用例: 賃貸収入を定期的な収入源とする。
    • 特徴: 物件を手放さずに収益化できる点が魅力です。近年は高齢者向け(バリアフリー化など)や外国人向け(多言語対応など)といった特定のニーズに合わせた賃貸需要も高まっています。
    • 注意点: リノベーション費用、入居者募集の手間、賃貸管理の手間(修繕、トラブル対応など)がかかります。空室リスクや家賃滞納リスクも考慮する必要があります。
  • 民事信託で信頼できる人に管理・運用を任せる(家族信託):

    • 活用例: 認知症などにより判断能力が低下した場合に備え、事前に信頼できる家族(受託者)に不動産の管理・運用・処分を任せる仕組みを構築する。
    • 特徴: 財産管理だけでなく、不動産の共有名義問題の解決や、次世代へのスムーズな承継を計画的に行える点が大きなメリットです。
    • 注意点: 専門的な知識が必要で、信託契約書の作成など弁護士や司法書士への相談が不可欠です。初期費用がかかる場合があります。
  • 相続対策として、生前に処分・整理を進めておく:

    • 活用例: 自分が元気なうちに実家を売却・整理しておくことで、子どもが相続時に直面する手間や税負担を軽減する。
    • 特徴: 相続人が複数いる場合の「争族」リスクを低減し、スムーズな資産承継を促します。
    • 注意点: 家族との十分な話し合いが必要です。生前贈与や売却のタイミングによっては、贈与税や譲渡所得税が発生する可能性があります。

これらの選択肢は、単に資産価値をどう生かすかというだけでなく、将来的にご自身や家族への負担をどう軽減するかという視点でも非常に重要です。

「配偶者居住権」にも注目

近年注目されている制度のひとつに、「配偶者居住権」があります。これは、2020年4月1日に施行された改正相続法で新設された制度で、夫や妻が亡くなった後も、残された配偶者(生存配偶者)が亡くなった人(被相続人)の自宅に引き続き住み続けられる権利を保障するものです。

相続において、自宅を失う不安を減らす仕組みであり、特に高齢の配偶者を守る制度として活用が進んでいます。これにより、配偶者は自宅の所有権を相続しなくても住み続けられるため、遺された財産の分配の柔軟性が増し、他の相続人が現金などの資産を受け取りやすくなるメリットがあります。

ただし、配偶者居住権の成立には、遺言書による指定、遺産分割協議での合意、または家庭裁判所の審判が必要であったり、登記が必要であったり、権利の評価額の計算が必要であったりと、専門家への相談が不可欠です。

【注意】一度設定すると取り消しが難しい強い拘束力

配偶者居住権は、残された配偶者の住まいを強力に保護する制度ですが、一度設定すると、その権利を簡単に取り消すことはできません。 例えば、居住権を持つ配偶者が将来的に認知症を発症し、自宅での生活が困難になり、施設への入居費用に充てるために家を処分したいといった状況になった場合でも、居住権が設定されていることで、家の売却が極めて困難になるといったデメリットが生じる可能性があります。

まだ新しい制度であり、その強い拘束力ゆえに予期せぬ事態への対応が難しいケースも考えられます。配偶者居住権の活用を検討する際は、メリットだけでなく、長期的なライフプランや将来のリスク(特に認知症などによる判断能力の低下や人間関係・家族構成の変化)まで見据え、専門家と十分に相談し、慎重に判断することが極めて重要です。

注意すべきは「名義の共有」

意外と見落とされがちなのが、「家の名義が誰になっているか」という点です。特に、親子や夫婦、きょうだいで共有名義になっている場合は、後々の手続きが非常に複雑になり、家じまいの大きな障壁となることがあります。

共有名義の注意点:

  • 売却や賃貸には共有者全員の同意が必要: 共有者の一人でも反対すれば、売却や賃貸は進められません。
  • 認知症や所在不明の共有者がいると動かせなくなる: 共有者の中に認知症などで意思表示ができない人や、連絡が取れない人がいる場合、その同意を得ることが困難になり、事実上、不動産の処分が不可能になるリスクがあります。
  • 相続が重なると、共有者がさらに分散し権利関係が複雑化: 世代を超えて相続が繰り返されると、共有者の数が増え、権利関係がねじれてしまい、ますます事態が複雑になります。

対策の一例:

  • 共有名義の解消: 生前のうちに、持分を他の共有者が買い取ったり、贈与したりすることで、名義を一人に集約することを検討しましょう。
  • 信託契約や任意後見の活用: 民事信託を活用し、判断能力が低下した場合に備えて管理者を定めておく、あるいは任意後見制度を利用することも有効な対策です。
  • 早めの家族間の話し合い: 共有名義のリスクを共有し、将来を見据えた話し合いを重ねておくことが何よりも重要です。

家じまいは、次の住まいの準備でもある

「家をどうするか」とセットで考えたいのが、ご自身やご両親の次の住まいです。人生100年時代と言われる現代において、住まいの選択は長期的なライフプランに大きく影響します。

  • 住み慣れた家に住み続けるにはどんなリフォームが必要か?: バリアフリー化、耐震補強、断熱改修など、老後も安心して住めるようにするためのリフォーム計画を立てておきましょう。
  • 自宅を売ってサービス付き高齢者住宅や有料老人ホームに入ることは現実的か?: これらの施設への入居費用や月額費用、サービス内容を事前に調べ、ご自身の資産状況と照らし合わせて検討することが大切です。
  • 子どもがいない、頼れる親族がいない場合に備えた財産管理や身元保証はどうするか?: 任意後見制度や成年後見制度、身元保証サービスを提供する団体など、利用できる社会資源について調べておく必要があります。

こうした将来設計の中で、家の処分・維持・活用の方針を立てておくことは、自分と家族の安心につながります。

「終の棲家」を考える

家を物理的な「資産」として捉えるだけでなく、家族の思い出が詰まった場所としての側面も忘れてはなりません。

実家は何かあった時に家族が集まれる場所であり、慣れ親しんだご近所との関係性も、長年の生活で培われたかけがえのないものです。これらの「無形資産」とも言える価値は、資産運用や売却益だけでは測れない、非常に大切な意味を持ちます。

もちろん、将来の生活や家族への負担を考慮し、資産としての家をどうするかという選択は必要です。しかし、その際には、単なる損得勘定だけでなく、心の拠り所としての家の意味、そして家族にとっての思い出の場所をどう残していくかという視点も大切にしたいものです。

家じまいと併せて考えたい「片付け」

【終活】生前整理家じまいを進めるうえで避けて通れないのが、家の「片付け」です。長年住み慣れた家には多くのモノが溢れているものです。特に親の家を「しまう」場合は遺品整理も兼ねるため、時間も労力もかかります。

しかし、この片付けは、ただモノを減らすだけでなく、自身の持ち物を見直し、今後の暮らしを考える良い機会でもあります。片付けには以下のような具体的なアプローチが考えられます。

  • 不用品の処分: 粗大ごみやリサイクル品など、自治体のルールに従って適切に処分します。
  • 買取・寄付: まだ使える家具や家電、衣類などは、買取サービスや寄付を検討しましょう。
  • 遺品整理: 故人の思い出の品や重要書類などを仕分けし、形見分けや処分を行います。
  • 生前整理: 自分自身の持ち物を整理し、今後の生活に必要なものだけを残すことで、管理負担を軽減します。
  • ハウスクリーニング: 売却や賃貸に出す前に、専門業者による清掃で物件の印象を良くします。
  • 専門業者への依頼: 時間や手間を省きたい場合は、遺品整理業者や不用品回収業者に依頼することもできます。

ここでは深くは触れませんが、片付けには「生前整理」や「遺品整理」の専門家やサービスを活用する方法もあります。片付けについてはまた別の機会に詳しくお伝えできればと思います。

家じまいは資産整理と人生設計の出発点

「家じまい」は、「終わりの準備」というより、人生の次のステージのための準備です。これは、単に不動産を整理するだけでなく、ご自身の今後の暮らし方、家族との関係、そして大切な財産の扱いを総合的に考える中で、家をどうするべきかが見えてくるプロセスです。

不動産は、他の資産と異なり、感情的な価値も大きく、また、法的な手続きも複雑になりがちです。だからこそ、時間がかかるテーマだからこそ、早めに考え始めることが最大のリスク回避になります。

専門家(不動産会社、司法書士、弁護士、税理士など)に相談したり、同じ立場の人と情報交換したりしながら、ご自身やご家族にとって納得のいく「家じまい」を進めていきましょう。


※本記事は、執筆時点における一般的な情報提供を目的としており、個別の状況に対する助言や判断を行うものではありません。実際のご判断に際しては、必ず関係法令や専門家の意見をご参照ください。また、専門家のご紹介もいたしますのでお気軽にご相談ください。

この記事を書いた人

今井 賢司
今井 賢司終活カウンセラー1級 写真家・フォトマスターEX
終活サポート ワンモア 主宰 兼 栃木支部長。立教大学卒。写真家として生前遺影やビデオレター、デジタル終活の普及に努める傍ら、終活カウンセラーとして終活相談及びエンディングノート作成支援に注力しています。

また、「ミドル世代からのとちぎ終活倶楽部」と題し「遺言」「相続」「資産形成」といった終活講座から「ウォーキング」「薬膳」「写経」「脳トレ」「筋トレ」「コグニサイズ」などのカルチャー教室、「生前遺影撮影会」「山歩き」「キャンプ」といったイベントまで幅広いテーマの講座を企画開催。

こころ豊かなシニアライフとコミュニティ作りを大切に、終活支援に取り組んでいます。

終活カウンセラー1級
エンディングノートセミナー講師養成講座修了(終活カウンセラー協会®)
ITパスポート
フォトマスターEX

- 近況 -
・「JAこすもす佐野」「栃木県シルバー人材センター連合会」「宇都宮市立東図書館」「塩谷町役場」「上三川いきいきプラザ」「JAしおのや」「真岡市役所」「とちのき鶴田様」「とちのき上戸祭様」「栃木リビング新聞社」「グッドライフ住吉」にて終活講座を開催しました
・JAこすもす佐野にて生前遺影撮影会を開催します

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終活相続ナビに取材掲載されました
・下野新聞に取材記事が特集掲載されました(ジェンダー特集
・リビングとちぎに取材記事が一面掲載されました(デジタル終活)

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