多死社会をどう生き抜くか(後篇) ― 死と向き合う選択

前篇では、医療や介護、葬送の現場が抱える構造的な問題を見てきました。
高齢化が進み、年間の死亡者数が170万人を超える時代。いわゆる「多死社会」は、もはや未来の話ではなく、私たち一人ひとりが直面する「現在進行形の現実」です。
では、そんな時代に、個人として何を備え、どのように最期を迎える準備をしておくべきなのでしょうか。

延命より「納得のいく最期」を

訪問看護での看取り日本では、依然として8割近くの人が病院で亡くなっています。
1960年代にはその逆で、8割以上が自宅での最期でした。
医療の進歩によって命を延ばせるようになった一方で、「どこで、どのように」生を閉じるかを主体的に考える機会が減ってしまいました

厚生労働省の調査によると、「できれば自宅で最期を迎えたい」と答える人は約6割に上ります。
しかし実際に在宅で亡くなる人はわずか15%ほど。
この「理想と現実の乖離」は、制度や家族の負担だけでなく、私たち自身の「心の準備不足」にも原因があります。

人生の最終段階においては、「延命のための治療をどこまで望むか」「誰に意思決定を託すか」といったことを、元気なうちに話し合っておくことが大切です。
それは死を考えることではなく、「どう生きたいか」を確かめる行為でもあります。

 

介護の現場を“社会化”する発想を

リモートで家族と接するサポートをする介護士「家族が看取るのが当然」という時代は、すでに終わりを迎えています。
高齢の親を介護する子ども世代もまた高齢化し、「老老介護」「介護離職」などの言葉が現実味を帯びています。

これからの多死社会では、“家族任せ”から“地域で支え合う”方向へシフトする発想 が欠かせません。
在宅医療や訪問介護だけでなく、看取りを支援する地域包括ケアシステムの活用も、その一歩です。
また、「訪問看護ステーション」「看取りサポート型の有料老人ホーム」「終末期ケア専門の在宅医」など、選択肢も少しずつ増えています。

重要なのは、「困ってから探す」のではなく、情報を早めに集めておくこと
自治体の相談窓口やケアマネジャーに、早い段階から関わっておくことが、後悔しない選択につながります。

 

葬送・弔いの多様化にどう向き合うか

葬儀 花入れ 焼香葬儀もまた、かつての「家」単位から、個人単位へと大きく変化しています。
直葬、家族葬、一日葬、自然葬――形式の多様化は、時代の価値観の変化を映す鏡のようです。

しかし一方で、「簡略化の果てに、心の整理が追いつかない」という声も聞かれます。
形式を削ぎ落とすほど、“別れの意味”をどう受け止めるか が問われてくるのです。

自分自身の葬送の形を考えることは、「誰に見送られたいか」「どんな言葉を残したいか」を見つめ直すことでもあります。
エンディングノートや遺言書を活用し、自分の希望を言葉にしておくことは、残される家族への最大の思いやりといえるでしょう。

 

備えとは、「死」を遠ざけることではなく、「生」を整えること

多死社会の本質は自然な人口現象

多死社会という言葉は、どこか冷たく響くかもしれません。
しかし本質は“多くの人が同時代に人生の幕を閉じる”という、自然な人口現象です。

大切なのは、それを「社会の問題」として嘆くだけでなく、一人ひとりが自分の生き方として受け止め、整えていくこと。
医療・介護・葬送のどの段階にも、“自分の意思”を反映させる余地はあります。

死は人生の終わりではなく、「生き方の集大成」です。
だからこそ、最期に向けて準備をすることは、残された時間をより豊かに生きるための行為でもあります。

 “多死社会”をどう受け止めるか

社会の仕組みが追いつかず、制度のひずみが表面化する中で、私たちは不安を抱えながら生きています。
けれども、「社会が変わるのを待つ」のではなく、個人が変わることから始めることもできるのです。

どこで、誰と、どのように最期を迎えたいか
それを語り合うことが、社会をより優しいものにしていく第一歩なのではないでしょうか。

 

多死社会をどう生き抜くか(前篇) ―変化する「死」のあり方

この記事を書いた人

今井 賢司
今井 賢司終活カウンセラー1級 写真家・フォトマスターEX
終活サポート ワンモア 主宰 兼 栃木支部長。立教大学卒。写真家として生前遺影やビデオレター、デジタル終活の普及に努める傍ら、終活カウンセラーとして終活相談及びエンディングノート作成支援に注力しています。

また、「ミドル世代からのとちぎ終活倶楽部」と題し「遺言」「相続」「資産形成」といった終活講座から「ウォーキング」「薬膳」「写経」「脳トレ」「筋トレ」「コグニサイズ」などのカルチャー教室、「生前遺影撮影会」「山歩き」「キャンプ」といったイベントまで幅広いテーマの講座を企画開催。

こころ豊かなシニアライフとコミュニティ作りを大切に、終活支援に取り組んでいます。栃木県宇都宮市在住。日光市出身。

終活カウンセラー1級
エンディングノートセミナー講師養成講座修了(終活カウンセラー協会®)
ITパスポート
フォトマスターEX

- 近況 -
・「JAこすもす佐野」「栃木県シルバー人材センター連合会」「宇都宮市立東図書館」「塩谷町役場」「上三川いきいきプラザ」「JAしおのや」「真岡市役所」「とちのき鶴田様」「とちのき上戸祭様」「栃木リビング新聞社」「グッドライフ住吉」にて終活講座を開催しました
・JAこすもす佐野にて生前遺影撮影会を開催します

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終活相続ナビに取材掲載されました
・下野新聞に取材記事が特集掲載されました(ジェンダー特集
・リビングとちぎに取材記事が一面掲載されました(デジタル終活)

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