親を嫌いになった気持ちと向き合う終活ガイド|感情整理の具体策

近親憎悪とは

近親憎悪 介護「大切な家族なのに、どうしてこんなに憎らしい気持ちが湧いてくるのだろう」
こう感じることは、心理学では「近親憎悪」と呼ばれます。近親者だからこそ生まれる、愛と裏腹の複雑な感情です。
介護や認知症のきっかけで、そんな思いを抱いたことはありませんか。そんな想いを抱いてしまう家族も、決して仲が悪いとは限りません。むしろ普段は仲が良い親子や夫婦だからこそ、感情が爆発することは特別ではなく、「どこの家庭にも起こり得る」現実なのです。

実は、親が高齢になるにつれて親子関係がギクシャクするのは特別なことではありません。親は加齢により弱さや依存を抱えるようになりますが、子どもはその変化を受け止めきれず、かつてのように「自分を守ってくれる存在」「頼れる存在」であってほしいと願ってしまいます。けれど現実には、その期待が裏切られることも多く、このギャップが愛情と同時に苛立ちや憎しみを生むのです。

そして、このような葛藤は「終活」とも無関係ではありません。終活は単に財産や葬儀の準備だけではなく、自分自身の感情や家族との関係を見つめ直す機会にもなります。

近親憎悪のような複雑な感情を、終活をきっかけに整理し始めることもできるのです。

高齢の親とうまくいかない心理

  1. 役割期待の裏切り感
    子どもは「親は自分を守ってくれる存在」という無意識の期待を持っています。しかし、親は加齢により弱さや依存を抱え、にもかかわらず子どもはその変化を受け止めきれず、かつての「親らしさ」を求めてしまう。このズレが、愛情と同時に苛立ちや憎しみを生むのです。

  2. 境界のなさによる摩擦
    友人や同僚なら距離を取れますが、親子は「離れられない前提」があるため、小さな言動のすれ違いでも強く傷つきやすくなります。

  3. 世代間の価値観の衝突
    高齢の親は「自分のやり方が正しい」という確信を持ちやすく、子ども世代は「もっと効率的に」と考える傾向があります。この衝突が繰り返されると、相互理解が進まず葛藤が深まります。

  4. 介護による慢性的ストレス
    認知症の被害妄想(財布を盗られたと言う、転倒を「暴力を振るわれた」と誤解する)や「あなた誰?」といった言葉は、介護する側の心を強く傷つけます。この積み重ねが「憎しみ」の感情へと変化してしまいます。

核家族化と単独世帯の急増

戦後、日本は大家族から核家族へのシフトを経て、1980年には単独世帯が一般世帯の約19.7%でした。しかし2020年には38.1%にまで上昇し、1世帯のうち約4割が「一人暮らし」という状況になっています(「単独世帯」が約40%:高齢者の単独世帯の増加)。

かつては親・祖父母・親戚・地域が支え合っていた介護や育児も、今では“家”の中だけで担われるようになり、家族といえどバラバラに暮らす現実が心理的・物理的孤立を生み、家族内の葛藤の温床となっています。

仲の良い家庭でも起こる関係悪化

古今東西の神話や文学には、親子や兄弟間の対立や憎悪が繰り返し描かれてきました。愛と裏腹に生まれる深い感情は、近親者だからこそ顕在化しやすいのです。

また人類学の視点では「近しい関係だからこそ距離を置く必要がある」とされ、近親関係にタブーが置かれることで社会全体のバランスが保たれてきました。つまり、家族の中に愛と憎しみが同居するのは人間社会に普遍的なテーマだといえます。

現代の家庭でも同様で、仲の良い親子や夫婦であっても、特に介護や認知症といった重たい現実に直面すると関係が一気に悪化することがあります。人間関係において、難しい局面において期待した役割が果たされないことや、相手の何気ない言動に対し苛立ちを覚えるのは自然なことです。

こうした現実を踏まえると、終活を「財産や手続きの準備」だけにとどめず、家族関係や自分の感情を見直す機会とする意義が見えてきます。家族の愛と葛藤の両方を認めることが、結果的に終活をより実りあるものにする第一歩になります。

家族だからこそ鋭くなる感情の摩擦

職場や友人関係なら距離を置いたり、関係を調整したりする余地があります。しかし家族には「離れられない前提」があるため、些細な裏切りや誤解が強烈に感じられます。

特に介護や認知症を抱える家族では、説明が通じなかったり約束が守れなかったりすることで、「わざと困らせているのでは?」という苛立ちが怒りや憎しみに絡むことがあります。

具体的な事例:誰もが経験しうる現実

事例A:夕食を拒否する父と苛立つ娘

70代の父が夕食の支度をした娘に何度も確認を求め、不機嫌になる。娘は「わざとやっているのでは?」と怒りが込み上げたが、後で「憎しみというより疲れと失望だ」と振り返り、介護サービスの利用を検討した。

事例B:夜中の徘徊に対応する夫婦の疲弊

認知症の妻が夜中に目覚めるたび付き添う夫は睡眠不足に陥る。「こんなこと、自分だけで抱えていいのか」という不安を抱き、地域の支援制度を活用することで負担を分散した。

認知症介護事例C:被害妄想による心的負担

認知症の親が「財布を盗られた」「自分で転倒したのに暴力を振るわれた」と周囲に言いふらすことがある。家族は、自分の言動や善意が誤解されることに深い絶望感や苛立ちを感じる。こうした被害妄想は、家族が最も近い存在であるからこそ強く心に刺さるものだ。支援サービスや医療相談を活用し、心理的負担を分散する工夫が欠かせない。

事例D:「あなた誰?」と言われる絶望

認知症の母が突然「あなた誰?」と問いかけることがある。娘や息子は、日常的に接してきた相手からの拒絶の言葉に深い絶望感を覚える。愛情のある関係が一瞬で揺らぎ、自分の存在が否定されたように感じる瞬間だ。支援制度やデイサービスの利用で、心理的負担を少しずつ軽減する工夫が求められる。

いずれも、日常的に起こり得る「他人事ではない」場面です。

終活の視点で考える:感情整理と支え合い

終活は財産や葬儀の準備だけではなく、感情や人間関係を見つめ直す機会にもなります。家族に苛立ちや憎しみを抱いてしまうときも、終活という枠組みを活かせば、財産や手続きの準備に加えて、家族との関係や感情を整理するヒントを得られます。

その具体的な視点が「感情の可視化」「距離の調整」「支援の活用」です。

  1. 感情の可視化

    • 日記やメモに「今日しんどかったこと」を書き出す

    • イライラや苛立ちの原因を具体的に整理する

  2. 距離の調整

    • 感情が高ぶったら深呼吸や短時間の休憩を挟む

    • 介護や同居における役割分担を家族で明文化する

  3. 支援の活用

    • デイサービスやショートステイで物理的に休む

    • 地域包括支援センターや支援グループに相談し孤立を防ぐ

こうした小さな実践を積み重ねることで、家族との距離感を無理なく調整し、感情の折り合いをつけやすくなります

認知症・介護に関する相談窓口

1. 宇都宮市医師会「認知症あんしんホームページ」
2. 公益社団法人 認知症の人と家族の会 栃木県支部
  • 電話相談月〜土曜日 13:30〜16:00(028-627-1122)

  • 来所相談毎月第4水曜日(宇都宮市若草1-10-6 とちぎ福祉プラザ3F)

  • 事務局月・水・金曜日 10:00〜15:00(028-666-5166)

  • URLhttps://www.alzheimer.or.jp/

3. 栃木県高齢対策課 地域支援担当
4. 栃木県認知症疾患医療センター
5. 地域包括支援センター(宇都宮市内25か所)
  • 役割高齢者の介護・福祉・健康に関する総合的な支援を行います。

  • サービス内容

    • 介護予防ケアプランの作成

    • 介護サービスの利用調整

    • 高齢者虐待の早期発見・防止

  • 詳細宇都宮市の各地域包括支援センターについては、宇都宮市の公式サイトをご確認ください。

  • URLhttps://www.city.utsunomiya.lg.jp/kenko/koureisha/service/center/index.html

 

親との距離を少しずつ整えていく

家族介護 終活親に苛立ちや憎しみを感じるのは、決してあなた一人の問題ではありません。むしろ、大切な人だからこそ生まれる自然な感情です。

大事なのは、感情を否定せず、少しずつ折り合いをつけながら距離を整えていくこと。終活を「手続きの準備だけでなく、自分と家族の関係を考えるきっかけ」として捉えると、親とも現実的に、そして穏やかに向き合いやすくなります。

今日からできる一歩としては、まず 「自分の気持ちを書き出すこと」 から始めてみるのがおすすめです。怒りや苛立ちを紙に出すだけでも、心は少し軽くなります。
そのうえで、介護や家事の負担を家族や制度に分散したり、短時間でも自分の休息時間を確保したりすることも、立派な終活の一部です。

親との関係はゼロか百かではありません。愛と苛立ちを抱えながら、少しずつ距離を整えていく――それもまた、豊かな家族のかたちのひとつです。


※本記事は、執筆時点における一般的な情報提供を目的としており、個別の状況に対する助言や判断を行うものではありません。実際のご判断に際しては、必ず関係法令や専門家の意見をご参照ください。また、専門家のご紹介もいたしますのでお気軽にご相談ください。

この記事を書いた人

今井 賢司
今井 賢司終活カウンセラー1級 写真家・フォトマスターEX
終活サポート ワンモア 主宰 兼 栃木支部長。立教大学卒。写真家として生前遺影やビデオレター、デジタル終活の普及に努める傍ら、終活カウンセラーとして終活相談及びエンディングノート作成支援に注力しています。

また、「ミドル世代からのとちぎ終活倶楽部」と題し「遺言」「相続」「資産形成」といった終活講座から「ウォーキング」「薬膳」「写経」「脳トレ」「筋トレ」「コグニサイズ」などのカルチャー教室、「生前遺影撮影会」「山歩き」「キャンプ」といったイベントまで幅広いテーマの講座を企画開催。

こころ豊かなシニアライフとコミュニティ作りを大切に、終活支援に取り組んでいます。栃木県宇都宮市在住。日光市出身。

終活カウンセラー1級
エンディングノートセミナー講師養成講座修了(終活カウンセラー協会®)
ITパスポート
フォトマスターEX

- 近況 -
・「JAこすもす佐野」「栃木県シルバー人材センター連合会」「宇都宮市立東図書館」「塩谷町役場」「上三川いきいきプラザ」「JAしおのや」「真岡市役所」「とちのき鶴田様」「とちのき上戸祭様」「栃木リビング新聞社」「グッドライフ住吉」にて終活講座を開催しました
・JAこすもす佐野にて生前遺影撮影会を開催します

終活相談・講座のご依頼はお問い合わせフォームからお願いします。
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終活相続ナビに取材掲載されました
・下野新聞に取材記事が特集掲載されました(ジェンダー特集
・リビングとちぎに取材記事が一面掲載されました(デジタル終活)

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